エルピーダメモリ破綻の根本に潜む原因は何か!? | 清話会

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東証1部上場で半導体メモリーのDRAM専業メーカー「エルピーダメモリ」が、2月27日付で東京地方裁判所へ会社更生法の適用を申請したと発表しました。

「2011年に法的整理を申請した上場企業は、2008年の33社、2009年の20社、2010年の10社から減少し、上場廃止後に法的整理を申請した2社を含め合計6社」で、「負債額の規模で見ても、2010年の『日本航空』(負債総額:約2兆3221億円)、『武富士』(同4336億円)の大型倒産に対し規模が小さ」(不景気.com)かったのですが、2012年の初っ端、負債4480億円の大型経営破綻となりました。

27日夜、記者会見した坂本幸雄社長は、「日本の半導体のマーケットシェア」が「過去70~80%あったものが、いまでは15%くらいまで落ちている。その最大の理由は、日本の開発力が落ちてきているということ」(東洋経済)と、開発力の低下を原因に挙げました。

そして、「この1年で起きた為替変動の大きさは、一企業の努力ではカバーしきれなかった」と語り、「リーマンショック前と今を比較すると、韓国のウォンとでは為替で70%もの違いが出ている。70%の違いというのは、技術で2世代ほど先行しないとペイしない。為替で完璧に競争力を失ってしまっている。70%の差はいかんともしがたい」(同)と、高水準で続く円高を原因に挙げました。

もちろん、この歴史的円高が大きな原因の一つであることは確かでしょう。

田原総一朗氏は、「日本の大手電機メーカーの業績は総崩れの状況にあるが、それとエルピーダの経営破綻の背景には同じ構図がある」と述べ、「日本の電機大手が作っていた半導体メモリーは主に自社製品に使用するためだった」こと、つまり世界標準ではなくあくまで自社標準の製品開発に走ってしまったこと、そして「事業展開が遅すぎたこと」「韓国企業のスケール」に比べ規模が小さすぎたことなどを具体的原因に挙げています。

エルピーダ破綻と、日本の大手電機メーカーの不振には、たしかに共通の原因があるように思えます。

シャープやソニーが2000億円を超える赤字を今年3月期に計上している背景について、ファンドマネジャーの若林秀樹氏は、こう述べています。

「各社はまだ端末ビジネスに固執している。固執している以上、業績の浮上は難しいのではないだろうか。情報家電などの端末の価値はどんどん落ちている。価値はクラウドなどのネットワークやソフトウェア、コンテンツなどに移っている。」
「もし、百歩譲って端末ビジネスで勝負をするのであれば、サプライチェーンの仕組みをゼロから考え、コスト競争力をつけなければならない。それこそ、今、各社がやらなければならないことだ。
(中略)
アップルの本当の強みはサプライチェーンにある。」(ダイヤモンドオンライン)

また、「日本の電機業界が凋落してしまった一番の原因はどこあるのか」という問いに、「やはり、モノ作りの垂直統合型モデルに固執して、水平分業化への対応が遅れたことだろう。
世界シェアを確保するためには、今まで以上に市場にすばやく商品を投入するスピード感とボリュームが必要になっている。残念ながら、今の日本の電機各社にはどちらもない」(同)と、他国の企業と比べたときの「事業展開の遅さ」について言及しています。

井上久男氏は、
「エルピーダ―は生産ラインでは非常に良いものを造る『製造品質』能力が高い。しかし、見方を変えれば過剰品質に陥り、それが原因で高コスト体質となり、韓国メーカーなどとの競争で市場を奪われた。過剰品質とは、言ってしまえば、メーカーの自己満足でお客が求めていない仕様や品質を造ってしまうことだ」とし、「日本の電機産業の苦境は、これまで『製造品質』にこだわりすぎ」、グローバル化で多様化する顧客の価値観に合わせた開発をしてこなかったこと、そして、「製造業は『価値品質』重視でないと生き残れなくなった」(現代ビジネス)
と述べています。

その舵取りをするのは企業の経営者ということになりますが、田原総一朗氏は、
「日本の経営者は『博打(ばくち)』が打てなくなった。危険を覚悟して思い切ってやってみることができなくなったという意味だが、言葉を変えれば、『チャレンジ』しなくなったのである。」
「企業の経営者は『これは』と見込んだら、資本を集中的に投入し、短期間で勝負に出る、そして次の事業へと取り組まなければ、勝てないのだ」(日経BPネット)と、トップのチャレンジ精神の鈍りを根本原因に挙げています。

大前研一氏も、「トップのリーダーシップ不足」を原因に挙げています。
「日本の輸出型企業が選択すべき道は一つだ。国外の伸び盛りの地域で、強い地歩を確立していくことである。
(中略)
しかし、どの経営者もくたびれ切っていて、『国外で地歩を固める』という意欲はあまり期待できそうにない。」
「では若いビジネスパーソンなら期待できるかというと、それもかなり微妙だ。長引く不況で企業が軒並み新卒採用を減らしている中、『次世代のリーダーたらん』という覚悟を持って社会に出てきた若者はどれだけいるだろうか。
(中略)
私は現在、『日本は“人材の端境期”に来ている』という認識でいる。時代を切り開かんとするエネルギーが存在しないわけではないのだが、トラクション(摩擦)が少なくなっているため、次の一歩がなかなか踏み出せない人が増えている――。そんな印象を持っている」(日経BPネット)
と、やはり人材不足に言及しています。

歴史的円高などの外的要因の前に、グローバル化する市場への柔軟かつスピーディーな対応を怠ってきたツケが、いまの日本の電機産業にたまってきてしまった、と言っては過言でしょうか。




エルピーダメモリが会社更生法を申請、負債4480億円(不景気.com)
http://www.fukeiki.com/2012/02/elpida-reorganization.html

2011年の上場企業倒産リスト全6社、減少傾向が続く(不景気.com)
http://www.fukeiki.com/2012/01/bankruptcy-list-2011.html

エルピーダメモリがついに経営破綻、坂本幸雄社長会見詳報(1)(東洋経済)
http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/10f0ab570a048f27e9eeed51b9333dca/page/1/

エルピーダ破綻、「攻めの姿勢」が貫けない日本の経営者(田原総一朗氏、日経BPネット)
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120301/300967/?top_jihyo&rt=nocnt

日本の電機各社はアップル、サムスンと同じ土俵で競争するな
               (若林秀樹氏、ダイヤモンドオンライン)
http://diamond.jp/articles/-/15976

メーカー自己満足の製造品質から顧客満足の価値品質の時代に突入
日産自動車が価値品質を求めて設計革命を展開(井上久男氏、現代ビジネス)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31932

苦境の電機大手、日本はいま「人材の端境期」(大前研一氏、日経BPネット)
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120215/299176/?ST=business&P=1